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あああああ 境・縞世(さかい・しまよ)  /二十四歳

都内某出版社に勤務する編集者二年生。
積読・鑑賞用を含め、ひと月に購入する本は○十冊。
2008年2月27日
『天使のいた屋上』

私も若者ですが、いま若者の間で流行しているケータイ小説。
いつでもどこでもすぐ読めてしまう気軽さが
若い方々にウケているのでしょうか。

私は今まで、紙の手触りを楽しみながら活字を追うのが
好きでしたので、流行のケータイ小説とは
無縁の人と思っていました。
しかし、今回選んだのはケータイ小説…正確には
ケータイ小説が書籍化された本です。

主人公は青春を謳歌したいが、ある出来事を境に
いじめられ、屋上を逃げ場としている中学生 ヤジマハヤト。
そして、写真を趣味とする多少口が悪い同級生の
カワシロミズキ。
屋上での奇妙な出会いが2人の関係を紡いでゆきます。
2人をつなぐものはケータイ、そしてお互い感じている
友情にも似た愛情です。今の時代、小学生でさえ器用に
メールを操り、コミュニケーションを図ります。
もちろん中学生の彼らも例外ではなく、器用に
親指からメールという形で言葉を生み出しています。

しかし、メールというのはその抑揚のない文章に
ときに誤解を生み、とまどい、ドキドキさせられるもの。
一度送信してしまうと、後にはもう戻れないギャンブルの
ような緊張感をもたらします。
大人の恋(どんなものなのかは私も模索中ですが)を知らない
彼らは遠回りをし、傷ついてそうしてやっと
大切な人との距離を縮めてゆく。

忘れかけていた、青春時代のもどかしくも切ない日々を
思い出させてくれる、『天使のいた屋上』。
まるで天使に見えた大切な人を、
ケータイという現実的なものと対比させたストーリーに
引き込まれてゆく自分に驚きでした。
一般的な書籍は縦組みですが、
これは本物のケータイのように横組みで構成
されているので、それにも影響されているかもしれません。

女子中高生に人気の携帯小説コミュニティサイト
募集された映画原作ケータイ小説コンテスト「ユアシネマ」で
大賞を獲得し、さらに今年映画公開が決定しているという
十分過ぎるくらいの肩書きを持った『天使のいた屋上』が、
皆さんの心にはどんな風に響いてくれるのか、
楽しみな作品です。

白鳥 加寿彦 著
『天使のいた屋上』
1050円 / ゴマブックス / 2007年

2007年8月21日
『フィンガーボウルの話のつづき』

(お暑うございます。お盆呆けでUPが遅れました。
申し訳ありません。
今回は、この猛暑のさなかでも、爽やかに読み
進められそうな文庫を選びました。)

この人の頭の中はどうなっているんだろう?
と思う人がときどきいますが、吉田篤弘さんも
そのお一人。

目次には、意味深なタイトルがずらり。
ナンバリングされた16+1の掌編。
(最初の一篇には付されていないのも、
読み進めていけばそのゆえんが分かります。)

作者の吉田さんと思われる「私」は、物語を
書きあぐねた末に、横浜のある小さな展覧会の
風景に出会い、物語の「しっぽ」を?みます。

それは、「起こさないでください」、と英文で
書かれたメッセージ・カードが掛かったドアが
いくつも並ぶ、不思議な展示。
そこから、その展示の由来となったある作家の
存在、彼が影響されたと思われるビートルズの
「ホワイト・アルバム」など、「私」は不思議な
巡り合わせに驚きながらも、自分自身の
物語を紡ぎ出していきます。

一つひとつの掌編を読み通して、最後には、
「ああ、そうだったんだ」という驚きと発見が
待っています。
ホテルのドアノブに掛けられた、「?」の
マークを思わせるメッセージ・シート、
ココアから立ちのぼる湯気のかたち、
などなど、さまざまなモチーフが、
頭の中で連なっていく、その連鎖が、
「私」の周りで起きるささやかな事件と、
「私」が書きつらねていく美しい物語の
間で静かに起こっていく。
それぞれの掌編がお互いに作用して
いることに読み進めながら気づいていく、
それが、この本を読むひとつの愉しみなの
かもしれません。

個人的に一番好きなのは、「ピザを水平に
持って帰った日」。
初めて食べるピザと初めて聴くレコードと
いう、平たい「円盤」同士の組み合わせが
なんともいえず絶妙なのです。

吉田さんの本には、「あったらいいな」が
満ち満ちているのですが、本書の随所に
描かれている、レインコートを収集・保存する
博物館、というのも、その候補です。
建設予定地は……何といっても横浜!

吉田篤弘著
『フィンガーボウルの話のつづき』
460円 / 新潮文庫 / 2007年

2007年7月20日
骨の髄まで味わえる! すがすがしい食肉の旅

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「本は見た目が第一」(9割かどうかは中身次第)を
信条に掲げる者として、初回には装丁にまつわる本を
選びましたが、今回もその傾向を引きずりつつ、
造本+イラスト+文章と、まさに全方向的に出色の
一冊を取り上げます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まず手にとって驚くなかれ、この軽さは何!
300ページを優に超える、しかも二段組の
ボリュームながら、重さが重さでないというか
何というか、持った時の心地よい重さと手触り。
そして目を引くイラスト。
ごろんと転がった豚の首がこんなにファニーに
見えるなんて……

形状についてはこのくらいにして。
著者の内澤旬子氏は、至極「まっとう」かつ「潔い」
心性の持ち主(でもこれって実はすごく難しいこと)。
それは、文章の端々にも、隅々まで容赦ないスケッチ
にも見てとれる。

氏の肩書きは、「イラストルポライター」。その名が示す
とおり、彼女の書く=描くものは明快でクリア。
文章とイラストが渾然一体となって、卓抜な表現手段と
なっているのです。
なにより、
「(食べるために動物をつぶすことへの)穢れの意識や
後ろめたさ」
という、よく分からないが厳然としてあるこの感情の
ゆえんを知りたい、という一心が、読みすすむほどに
びしびし伝わってくる。

全章にわたって、牛、豚、羊、ヤギからラクダまで(!)、
動物が「肉」や「革」として我々のところに届くまでの
過程が、いっさいの省略なしで丹念につづられていますが、
個人的に一番の読みどころは、何といっても現地の
人々とのやりとり、すなわち「攻防」の描写。
現地では当然と思われているものの考え方や感覚に、
氏は鋭く切り込むけれど、彼らはなかなか肝心の
疑問に応えてくれない。
そこを「うーん」と唸って粘りに粘り、わからない
ところは納得がいくまで尋ねる(質問を断念せざるを
えなかったり、踏み込めない部分があったりと、常に
答えを得られるわけではないが)その心意気には感服。

最初に手に取った時は、子供のころ好きだった妹尾河童の
『河童が覗いた〜』シリーズを思い出したけれど、
一読してみると、屠畜に対する個人的な好奇心が、
BSEや職業差別、動物愛護団体など、世間一般の事柄と
繋がっていくさまが、なんとも興味深い。
読み進めるうちに、ぼんやり曖昧だったものが目に見える
ようになっていく、そういう「すがすがしさ」をもたらす
一冊です。

内澤旬子著
『世界屠畜紀行』(セカイトチクキコウ)
2,310円 / 解放出版社 / 2007年

2007年6月28日
「装丁買い」ノススメ

タイトル:「装丁買い」ノススメ

●和田誠 『装丁物語』 (1050円、白水社、2006年)

黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』、村上春樹『ポートレイト・
イン・ジャズ』 『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』、
雑誌『本の雑誌』(表紙AD)、今年では、村上春樹の
新訳が出たスコット・フィッツジェラルドの
『グレート・ギャツビー』(函入り、愛蔵版のほう)……
これらの本に共通しているものは?

正解は、和田誠さん(奥様は、テレビでもおなじみの
平野レミさん)。
書店に入って、単行本でも文庫本でもいい、
棚をひとめぐりしてみると、
まずまちがいなく、と言ってよいほど、和田さんが
装丁した本に出くわします。
絵本から文芸書まで、タイトルの特徴的な書き文字と、
ちょっととぼけたような味わいのある似顔絵やイラストに
見覚えのある人はいないとは言わせない!

和田テイストに馴染んでくると、背や表紙を見て、
「これもしかして和田さんかな?」と目をつけた本を
手に取って、装丁者クレジットを確認してのち、
「あたり」か「はずれ」に小さく一喜一憂する楽しみも
沸いてきます(意外な本が和田さんの装丁だった、
ということもあるかもしれません)。

和田さんといえば、三谷幸喜さんなどの軽妙洒脱な
エッセイや、星新一さんのショート・ショートの印象が
強いですが、谷川俊太郎さんや今江祥智さんなどの
絵本を手がけているほか、和田さんご自身の音楽や
映画にまつわるエッセイや絵本も数え切れないほど。

一冊の本を(が)、手に取る(取られる)ときの、顔、すなわち
「第一印象」をつくる装丁家。
本ができあがるまでの、作家や編集者との幾多のやりとりや、
氏がめざした装丁に至るまでの試行錯誤のプロセスが、
和田さんの手がけたいくつもの本の写真とともに、
愛情あふれるまっすぐな言葉でつづられています。
読んだ後、「本」を見る目がまちがいなく変わる一冊です。

和田誠さんのもう一つの側面=イラストレーターとしての
活動にせまる→
●和田誠 『似顔絵物語』(1050円、白水社、2006年)

「編集者自装」の時代から中島英樹や祖父江慎まで、
戦後日本の「装丁史」を知るには、こちらもおすすめ
(和田さんも登場します)→
●臼田捷治 『装幀列伝 本を設計する仕事人たち』
(861円、平凡社新書、2004年)

和田誠 『装丁物語』
1050円 / 白水社 / 2006年